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| 次世代組込システム開発環境と「ITものづくり」 |
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グローバリゼーションのなかに揺らぐ日本。
その一角に「ITものづくり」という楔を打つものたち。
次世代のものづくり思想は、ここに新生の大地を生むのだろうか。 |
 北海道大学大学院工学研究科教授 |
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1954年生まれ。北海道大学工学部卒、同大学院博士課程修了。工学博士
CG、人工知能、コンピュータネットワークなどの研究に従事し、記号処理用言語処理系Hokkaido Common Lisp、ネットワーク上のCG作成システム「The signboard Factory」、多ソース融合型表現メディアシステム「Live Text」など実用化された開発実績は多数。主な著書に『パソコンによる3次元コンピュータグラフィクスの実際』CQ出版(1983)『移り気な人の情報工学』CQ出版(1997)など。 |
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「ITものづくり」という構想 |
2003年3月、ITカロッツェリアの成果発表会が開かれた会場で、北海道大学大学院工学研究科教授・山本強は、いつもの飄とした風情で佇んでいた。
その印象のまま壇上に上がった山本は、もう何回も繰り返してきたITカロッツェリア構想のストーリーを、もう一度分かりやすく語った。このとき初めて「ITものづくり」という構想の意味が見えた参加者も多かったかもしれない。
その本質においては、きわめて学究的でありながら、行動的で実践派の山本は、地域のコミュニティと深いつながりをもちつづけてきた。日本のネットワークコミュニティの先駆的グループだった札幌のNCF(ネットワークコミュニティフォーラム)の議長をつとめ、札幌ローカルエリアのコミュニティFMに毎月一回パーソナリティとして登場もしている。情報技術を誰にでも分かりやすく語る手腕は、右に出るものがない。
札幌に、使い勝手の良い組込型IT機器のプロトタイプを、高速に、高い信頼性のもとに開発する次世代型開発環境これがITカロッツェリア構想のなかで、山本がいう「ITものづくり」のエッセンスである。
その概念は、山本にとっては極めて明快だ。
「モノの良さは開発サイクルをどれだけ回したかで決まるわけです。ITものづくりにおける製品開発の余裕はどんなに頑張っても1年。この期間での開発サイクルは、従来の方法では1回程度しか回せない。だから大企業は平行して何本も開発プロジェクトを走らせ、そのなかから良いものを選択する。それでは彼らに勝てるわけがない。しかし、この開発スピードを早めることで、同じ納期で、デザインも使い勝手も良いものができるという評価が定まれば、札幌にものづくりの拠点が生まれることは十分可能です」。
札幌型ともいえる、小型のIT機器を小規模に作るための最適な設計システムとして、ハードやソフト、CADも含めて次世代化しようというのが、このITものづくりの意義だと、山本は言う。
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組込系に強いサッポロバレー |
ITカロッツェリア構想は、札幌が得意とする組込系開発に焦点を当てた。
たとえば現在では携帯電話から家電製品にいたるまで、あらゆる機器に基板とソフトウェアが組み込まれている。組込システム開発とは、IT機器などハードウェアに組み込んだ基板や回路の設計からソフトウェア開発まで広範な開発を行うものだ。
札幌には多くの情報企業が集積しているが、そのなかにはこのような組込技術を得意とし、基板設計から、組込ソフトウェア開発まで、豊富なノウハウと技術力を保有している企業が少なくない。その技術力から、機器や製品を自社開発する企業も多い。
そこで活躍するエンジニアたちはハードとソフトの両方に深い知識をもっていることを誇りにしている。ハードの環境次第では、最近の若いプログラマには知識すらないアセンブラで書くようなことも当たり前にやってしまう。
携帯電話やPDA、カーナビシステムの新製品など、新しいIT機器の組込ソフトも、実はメーカーから札幌の企業に開発が出されていることが少なくない。NTTドコモが世界に先がけたiモードのプロトタイプを札幌の企業が開発したことは、ひとつの伝説になっている。
そのような企業を訪ねると、そこには明らかに業務系ソフト企業にはない、職人的なプログラマや開発者の濃密な匂いが漂っている。
そのような札幌の強みを活かすには、「モノ」にこだわることだという感覚が山本にはある。
「ITというと、みんなソフトウェアやeビジネスをイメージするかもしれませんが、僕にとってのITはモノ作りなんです。無形のものではなく、有形のもの。そこに美しさを感じるのですね」
高校生のときからアマチュア無線やテレビ修理のアルバイトに興じ、北海道大学に入学後は、青木由直教授が結成した北海道マイクロコンピュータ研究会のメンバーとして、手づくりマイコンに熱中した。当時作った「CYNTHIAC」と名付けられたマイコンボードは、今も山本の研究室の棚を飾っている。
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組込システム開発環境の次世代化へ |
「ITものづくり」という山本の発想の根底にあったのは、このような経験に裏付けられた「実感」と言ってもいい。
これまで山本のもとには、よく「こういうものを作りたい」という話がもちこまれた。山本は、その希望を聞いて、すぐにソフトやハードを試作して、数日後には目に見える試作品にして、相手に見せては驚かせていたという。
「3日後くらいには、少なくとも基板くらいはできている。簡単なものであれば5日から1週間でラピッドプロトタイピングができる。そのようなシステムを作るのは可能です」
しかし、そのことを実現するには、現在の組込システム開発は大きな問題を抱えていた。
たとえば、これまでの組込システムの開発サイクルでは、ハードウェア回路設計、基板設計、ソフトウェア設計、実装設計、形状デザイン設計など、設計分野が細分化・専門化していて、情報を相互に利用することが難しかった。外形デザインは、基板の設計が変わると設計のやり直しを迫られたし、型設計は常に基板とデザインの板挟みだった。共通の情報共有基盤がないために手戻りも多く、これでは迅速なプロトタイピングは不可能だったのである。
ITカロッツェリアにおける山本の研究は、この解決にあった。02年度の研究では、このような異なる専門領域の開発環境をUML※1で統一されたモデルに再構築し、ハードウェア設計、ソフトウェア設計、デバック作業、さらには形状デザイン側との製造データ交換までを一貫したプロセスに統合することを目指した。ここから将来的には、基板設計を瞬時に形状デザインに反映させたり、一台のWeb端末からハード、ソフトの設計を一貫して行うことを実現しようとしている。
「次世代化というのは、なにも画期的なCADを作ることではない。ハードやソフトの設計から形状設計、ユーザビリティまで、CADの一段上にうまくデータが自動的に流れるような皮をかぶせようというものです」
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問題解決としてのモノ作り |
このような組込系開発の要素技術が手の内にあることで、札幌は「ITものづくり」の拠点となれると、山本は言う。別に先端である必要はない。ましてやモノ作りの伝統や、金型産業も、製造業も必ずしも地元になくてもいい。
金沢や京都の伝統工芸を考えたとき、それは「複製」としてのモノ作りであるといえる。伝統を複製するなかで、加工精度を上げ、完成度の高いものを「作品」として仕上げていく。しかし「ITものづくり」とは、複製を量産するのではなく、問題や課題のなかから、ファーストサンプルを生み出すことなのである。それはかつて山本になげかけられた「このようなもの作れないか」「このようなものが欲しいのだが」という問いかけに対する答えでもある。
「ITカロッツェリアというのは、ものづくりによる問題解決のメカニズムなんです」
こう山本は明確に言い切る。
考えてみれば、すでに札幌は、そのような問題解決のモノ作りをしてきた土地ではなかったか。SONYは、最初のパソコンのインタープリタを求めてアメリカから進路を札幌へ転じた。シャープも、NECも、札幌に問題解決を求めた。その記憶と遺伝子は、まちがいなく札幌に息づいているのである。 |
※1 UML 統一モデリング言語(Unified Modeling Language)のこと。
ソフトウェアシステムの仕様決め、図示、大系化、文書化の方法を規程する言語で、オブジェクト指向を使ってモデリングする際に使われている。近年ではビジネスモデリングなどにも使われるようになった。 |
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■研究テーマ
次世代組込み系システム設計手法研究開発プロジェクト |
| ■研究目的 |
「ITものづくり」における課題を解決しうるIT関連機器開発環境を製作し、組込型IT機器を高信頼かつ短期間で開発する次世代型開発環境の基盤環境を整える。 |
| ■研究内容 |
(1)短期間IT機器開発のための要求仕様の確定と概念の抽出
(2)短期間IT機器開発のためのソフトウェア手法確立と基本システムの導入
(3)組み込用ファームウェアコンポーネント開発およびコラボレーション型IT機器を題材としたモデルプロダクト開発 |
| ■参画機関 |
北海道大学、(株)マイクロネット、(株)ソフトフロント |
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