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研究プロジェクト

平成14年度成果
次世代インダストリアルデザインのテイクオフ
岸浪 建史 理想的な形と構造を生む工業デザイン。
情報技術は、その世界を一変させた。
そしてさらに次世代工業デザインが、
ITカロッツェリアのなかに胎動する。
岸浪 建史
北海道大学大学院工学研究科教授
1944年北海道生まれ。71年北海道大学大学院工学研究科修了。
71年北大工学部講師。72年同助教授。87年より同教授。工学博士。
主な著書として"Rapid Product Development , Proceedings of 8th International Conference on Production Engineering"
工業輸出立国から情報輸出立国へ
 札幌ITカロッツェリア構想における基礎研究分野「次世代工業デザイン手法研究開発プロジェクト」で研究代表をつとめる、北海道大学大学院工学研究科教授・岸浪建史は、これまで日本のCAD開発の最前線で活躍してきた。
 コンピュータによる解析手法の研究や曲面加工技術の開発などの研究を進め、電子機器や自動車など日本を代表する大手メーカーとの共同開発も数多く手がける一方、1984年からCADデータ交換の国際標準であるSTEP標準(ISO10303)の規格づくりに参画するなど、情報技術の国際的流通基盤の確立にも取り組んできた。まさに40年近くにわたり、わが国の生産技術の発展に寄与し続けてきたわけだ。
 その岸浪は、21世紀の日本のモノ作りを次のように言う。
 「これまでは生産設備と人を固定し、材料や製品といった“モノ”を動かしていくという生産形態。しかし、今後は人と情報を必要な場所へ持っていき、そこでモノを作るという形態になる。日本は、工業輸出立国から情報輸出立国へと移っていかなければならない」
 日本が世界の工業大国に躍り出ることができたのは、日本的生産システムのなかで高品質な製品を生み出すことができたからである。情報の時代になってもこの原則は変わらないと岸浪は考える。
 「これからは情報が製品の品質を支配し、それが富に結びつく世の中になるだろう。その中で、いかに高品質で高機能な情報を創り出していくか。これは日本の製造業が直面している最も大きな課題のひとつです」

変革の波を起こす
写真1 旧来型のモノ作りに弱みをもつ北海道にとって、その時代の革新はチャンスであると、岸浪はフィンランドの情報機器メーカー・ノキアを例にあげる。
 携帯電話の世界シェアでトップを独走するノキアは、80年代からエレクトロニクス分野に進出し、コンシューマ向け家電製品などを幅広く扱った。しかし、ヨーロッパ市場ではドイツ、フランス、イギリスなどの大国にリードされ、とくに機械工業ではドイツという大国を近隣に抱えるという危機感がつねにあった。そこで、ノキアは既存の家電分野を一気に切り捨て、未知の分野であった情報通信に特化したのである。
 「ノキアのような企業が、ドイツやフランスではなく、フィンランドから興ったというところに注目したい。新しい流れを創るのは、技術力や資産を保有している地域とは限らないということ。重要なのは明確な方向性を持ち、一気に変革を進める強い意志です」
 むしろ、製造業が集積する地域では、膨大な資産と巨大なノウハウの蓄積が変革の妨げになるケースもある。長年にわたって築き上げられた産業構造を崩すのは容易なことではない。しかし、変わらなければグローバルマーケットから取り残される。
 北海道で胎動する新世代のITモノ作りへのアプローチとは、日本に変革をもたらす新しい流れを起こすことでもあるのかもしれない。

新しい意匠設計プロセスの開発
 その既存資産から自由な発想で、新しいモノ作りを創出するためのキーとなる研究が、岸浪が責任者となっている「次世代工業デザイン手法研究開発プロジェクト」である。
 美しいデザインと優れたインターフェイスをもった製品デザインを、迅速に、高品質に実現するモデリングソフトウエアと、次世代型ラピッドプロトタイプ造形技術を開発することで、モノ作りのインテリジェント化を図るという構想は、たとえばスピードを要求されるIT機器開発のライフサイクルにインパクトを与えるものだ。
 そのポイントとしては、メッシュモデル(曲面を作るのに適した表面分割モデル)とソリッドモデル(幾何的な形状を作りやすい密度をもったモデル)を併用する現在一般的なプロセスに対し、高密度・多重解像度メッシュモデルを一貫して使うことで、メッシュソリッドのデータ変換をなくし、データの安定性と迅速性を図ること。また測定装置による物理モデルからのメッシュモデルの生成、CAD-CAE連携による形状最適化システムを組み合わせるなど、高密度メッシュモデルに基づくIDモデラーの開発がある。すでにこのIDモデラーは開発を完了し、基本アルゴリズムに関する特許も出願済みである。
写真2 さらにこのIDモデラーと動きの仕様を設計するダイナミックモデラーとを連携し、形状から動きまでをシミュレーションできるデジタルプロトタイピングを目指している。カバーを開いたり、ボタンを押したり、ソフトを起動させるなどの機能や操作性、あるいはレスポンスの早さ、画面の見やすさ、インターフェイスの使いやすさなど、実物の製品と同じような機能をコンピュータの中でリアルに表現し、ユーザが実際に試せるような仕組みにしていく計画だ。
 また実際のモックアップは、着色樹脂による光造形RP装置などでメッシュモデルからスピーディに作成できるようになっている。
 この一連の次世代工業デザイン手法を導入することで、ITカロッツェリア構想は、新しいモノ作りのためのインフラとも呼べる、ひとつの「装置」を手に入れることになる。

美しさの解析
 岸浪の発想は、さらにその先を見ている。
 それは、これまで人間の頭の中にしか存在しなかった「美しさ」や「心地よさ」の要素を抽出し、デジタルデータとして保存しようという試みである。
 たとえば、誰かが「アールデコ調の家具はいい」と感じる、あるいは「イタリアのデザイナーが作ったイスは美しい」と思う。そのとき、見る人に「良い、美しい」と感じさせる要素は何なのか、そして大勢の人々が「良い」と認める形状にはどのような特長があるのか、それをデジタル情報として収集し、分類し、データベース化しようというのである。
 「実際にイスを見て、その脚の曲線を美しいと感じるのであれば、その曲率はどういうものか、曲線とその他の部位とはどういう関係になっているのか。そういうことを一つひとつ調べていくことから始めている」
 ユーザビリティ研究グループの札幌市立高等専門学校や大手メーカーなどのデザイナーと共同で「良いデザインとは何か」を探る作業もスタートしている。
写真3 その上で、収集されたデータの中に隠されている原理を見つけ出し、情報空間に再現する手法を開発していく。アールデコのような形状が欲しいと思ったときには、すぐにデータベースの中に探しにいける、そして何通りかの似たような形状をリストアップし、最適なものを選択する。さらに、それに手を加えて新しい形状を創り出す機能も加えていく。
 「その一連のプロセスを特許化し、知的ノウハウとして蓄積していければ、札幌ITカロッツェリアの独自性を出していけるだろう。集めたデータをマイニングして系統や流行の変遷などを体系的に分析するなど、リテンションの活用範囲も広がっていくと思う」と、その将来性にかける期待は大きい。
 しかしそれは必ずしも美しさという抽象性を数値化するというわけではない。
「人間はモノのかたちを何から学んできたのか? それはおそらく生物も含めた自然界からだと思います。現在のCADシステムは、曲線や曲面を表現するのに数学的な定義式を使っています。しかし、私たちが美しいと感じる曲線は、数学から生まれたものではなく、自然の中の何かを真似しているはず。本来、モノのかたちを表すのに高度な数学は必要ない」と岸浪は話す。
 感性工学という領域が注目され、98年には感性工学会も結成されている。工学にとって美とは何かという、まさに感性工学の領域が、次世代工業デザイン手法の向こう側に見えてきているのかもしれない。
■研究テーマ
次世代工業デザイン手法研究プロジェクト
■研究目的 美しい筐体形状と、優れたGUI操作性をもつ製品の意匠デザインを、迅速かつ高品質に実施できる次世代モデリングソフトウェアならびに次世代RP造形技術の開発。
■研究内容 (1)高密度メッシュモデルに基づくIDモデラーの開発
(2)ビヘービアー記述可能なダイナミックIDモデラーの開発
(3)形状、挙動デジタルプロトタイプ間協調シミュレーションによる機能評価
(4)ハイブリットRPによるデザインモデルの迅速試作サービス技術の開発
(5)筐体改良パイロットプロジェクトによる札幌地区の工業デザイン・試作請負能力調査
■参画機関 北海道大学、北海学園大学、札幌市立高等専門学校、旭川工業高等専門学校、北海道立工業試験場、(株)富士通九州システムエンジニアリング、(株)日立製作所
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