SAPPORO IT CARROZZERIA 文部科学省 知的クラスター創成事業
Japanese English Korean HOME
知的クラスター創成事業コンセプト 札幌ITカロッツェリア構想 研究プロジェクト イベント情報・お知らせ
事業推進体制 プロトタイプ図鑑 リンク集
SUB MENU
■平成18年度成果
■平成17年度成果
■平成16年度成果
■平成15年度成果
■平成14年度成果
研究プロジェクト

平成14年度成果
ユーザビリティによるデザインと工学の新結合(イノベーション)
森田 敏昭 次世代ITモノ作りデザインを考えるとき
ユーザビリティという思想が浮上してくる。
エンジニアリングとデザインが出会うその地平で
デザインは意匠をこえて、人間と世界のインターフェースへと進化する。
森田 敏昭
札幌市立高等専門学校工業デザイン講師
1962年京都生まれ。1986年京都芸術短期大学専攻課建築デザインコース修了。
(有)エル・アイ・シー/森田敏昭設計事務所を経て2000年より同職。
93年あかりフェスタGIFU準グランプリ、03年北の生活産業デザインコンペティション大賞。
http://www.toshiaki-morita.com
ユーザビリティへのアプローチ
 ユーザビリティが、ITカロッツェリア構想の全ての研究テーマの核心に位置していると語る関係者は多い。多くの文書やプレゼンテーションのなかで、あるいは関係者の会話のなかで、ユーザビリティという言葉は頻繁に登場する。
 では、そもそもユーザビリティとは何なのだろうか。
 その原点となるのは、日本でも有名になったヤコブ・ニールセンによる定義だろう。彼は、ユーザビリティという概念を、製品やシステムの機能性(ユーティリティ)に対し、ユーザがその機能をどのくらい便利に使えるかという考え方だと規定し、「学習しやすさ」「効率性」「記憶しやすさ」「エラーの少なさ」「主観的満足度」の5つの特性で構成されるとしている。(※1)
 ユーザ工学の第一人者・黒須正明は、それをさらに分かりやすく、「取り扱いにくさとか分かりにくさといった問題点が少ないことであり、製品の利用場面での人との相互作用においてマイナス面がどの程度小さいかを指している」と定義する。(※2)
 私たちがよく日常のなかで「直感的に使える」とか、「マニュアルを見なくても分かる」といった評価をしているのは、まさにそのことだ。
 そのユーザビリティに関する国際規格であるISO13407が制定されたのは1999年。このインパクトは、グローバル化のなかでISO9000や14000シリーズの取得が不可避になっていったことと同様に、ユーザビリティという概念なしにシステム設計や製品開発が難しくなることを意味し、研究開発プロセス全体の見直しを迫るものとなることは言うまでもない。(※3)
 このように次世代の「ITものづくり」をめざすITカロッツェリア構想にとって、ユーザビリティは不可欠のものであると同時に、さらに、いちはやくユーザビリティによる人間中心の設計プロセスを確立することは、製品開発の全く新しいパラダイムの確立による革新的産業創出という地域戦略にとっても極めて重要なテーマであるともいえる。
 ITカロッツェリア構想のなかで、このユーザビリティと真正面から取り組んでいるのが、札幌市立高等専門学校で工業デザイン講師を勤める森田敏昭を研究代表者とするユーザビリティ研究開発プロジェクトである。

高齢者環境をターゲットとしたユーザビリティ
 札幌市立高等専門学校は、札幌市の南に広がる緑の森に囲まれた自然のなかに位置している。野外彫刻美術館「札幌芸術の森」や札幌アートビレッジに隣接する恵まれた環境のなか、インダストリアルデザインの単科高専として1991年に開学。森田は、この市立高専で工業デザインを担当している。
 ユーザビリティ研究開発プロジェクトの1年を彼はこう総括する。
 「初年度は既存のユーザビリティ研究の現状と事例を調査し、3つのグループ研究を少しずつ進め、研究のシステム作りを行ってきました。2003年度は、より具体的に<高齢者>に環境を設定し、高齢者や福祉にITがどうからんでいけるかがテーマです」
 ユーザビリティを高齢者という環境にしぼりこむ。これは一見、バリアフリーによる「利用可能性」のような、狭い意味でのユーザビリティへの後退にも見える。しかしそうではなく、極めて戦略的な事柄なのだと森田は言う。
 「大企業が巨額の研究開発費を投入するような製品分野での競争は意味がない。高齢者をテーマにするのは、マーケットが小さく、いままで大企業ができなかった分野であり、地域限定のニーズを吸収でき、行政や自治体と連携すれば一定の市場も見込めるからです」
 日本は急速に高齢化社会に移行している。将来の市場性として可能性は広がっている。
 「高齢化社会は世界中で懸念されている現象だが、『高齢化=不幸』ではありません。最近ようやく高齢者向けの携帯電話が登場したが、まだまだ高齢者をターゲットとした商品開発は少ない。今の中高年層は、財力もあるし好奇心も持っている。便利で使いやすいIT機器があれば使ってみたいと思うはずです。高齢者の生活のシーンのなかで、どのようなニーズがあるのか掘り起こし、蓄積していけば、世界的に通用する価値が生まれるのではないか」と森田は話す。

「シーン」と「シナリオ」
写真1 このような高齢者という環境に、様々な「シーン」を設定し、そのなかでユーザを主人公とした「シナリオ」を構築し、機器開発を行うという発想は、森田のデザイナーとしての経験に裏打ちされている。
 森田は、かつて無印良品として知られる「良品計画」の顧問デザイナーとして照明器具などのデザインを手がけた。この無印良品こそ、日本で初めて「シーン」で商品開発を行い成功した事例だった。今ではソニーの「ソニースタイル」など、環境、スタイル、シーンのなかに商品開発を位置づけてブランド化を図る手法は広く行われている。
 森田は、「高齢者のためのIT環境」という枠組みの中に、ユーザの特性や利用条件によって設定が異なる、いくつかの「シーン」を描こうとしている。ユーザの年齢や家族構成、生活スタイル、使用目的などさまざまな条件を想定し、それに応じてIT機器の種類やデザイン、操作レベル、オプションなどを組み合わせていく。そして、そのような「シーン」と「シナリオ」の中に登場するさまざまなIT機器のプロトタイプをカタログとして用意し、メーカーに対して提案してくのが最終的な目標だ。
 「大手メーカーには、特定の環境の中に多様なシーンを設定し、それに応じたシナリオとプロトタイプをいくつも用意することはできないと思う。だから、『この地域にカタログがある』と認知されれば、日本国内だけでなく世界のメーカーを相手にビジネスが展開できます」
 そのためにはユーザビリティもまた、個別の機器ではなく、シーンのなかでとらえ直される必要がある。
 「たとえばAIP(※4)サービスがありますが、あれはASPによるソフトウェア提供から、コンタクトセンターがサポートまでしてくれるわけです。高齢者にとっては単なる機器だけではなく、そのようなネットワークやサービスも含めて、ユーザビリティを考えるべきです」
 次年度は、その実現のためのターゲットオブジェクトを絞り込み、たとえばAIPシステムによるPCとリモコンとしても利用できるPDAを組み合わせるなどの、実際にプロトタイプを作り上げるのが課題である。

デザインとユーザビリティの融合
写真2 これまでインダストリアルデザインは、製造業が集積する地域との密接な関連のもとにあった。製造業が弱い地域には、工業デザインもまた産業として成立しえなかった。しかし工業化社会からサービス社会への変化というメガトレンド、工場生産の中国へのシフトとファブレス化、金型産業の衰退など、旧来のデザインとモノ作りのあり方は大きな変化に直面している。
デザイン産業の振興を真剣に考える地域にとって、これはチャンスに他ならない。ITカロッツェリア構想が変えるものは、まさにこのような旧来の工業デザインと製造業のあり方だと言っても過言ではない。新世代工業デザインが可能にするデザイナーとエンジニアの新しいコラボレーションへの期待が生まれているのだ。 森田はそこに、デザイナーらしいひとつの布石を打っている。
 それはユーザビリティ研究開発の目標が、「使いにくい情報機器」から「役に立つな情報機器」の開発研究にあるという点である。
 「ただ使いやすいだけでは、人間はものを買いません。さわりたくなる、欲しくなる、そんな魅力的な製品でなければいけないのです」と森田は話す。その「魅力」こそ、デザインが生み出すものだとの自負がある。エンジニアリング技法に裏付けられたユーザビリティと「魅力」というデザイン技法が融合して、初めて「ITものづくり」は、生きたものになる。それはITカロッツェリア構想の隠れた、しかし本質的な文脈のひとつだろう。
 ITカロッツェリアの研究のほとんどが工学系のアプローチであることに対し、森田のユーザビリティプロジェクトは、デザイナーからのアプローチである。もはや文理融合は時代の趨勢となっているが、「魅力的な製品」という言葉が象徴するデザインという「感性」を、工学系の研究者たちがどのようにとらえ、そこからどのような新結合=イノベーションが生まれるのか、楽しみである。
※1 『Usability Engineering』(1994)/邦訳『ユーザビリティエンジニアリング原論』東京電機大学出版局
※2 『ユーザ工学入門』(1999)/黒須正明・伊東昌子・時津倫子著/共立出版
※3 黒須正明他『ISO13407がわかる本』によると、ISO13407におけるユーザビリティ概念は、さらに広くニールセンのユーティリティとユーザビリティを合わせ持った「使い勝手」という意味にあたる。
※4 AIP Application Infrstructure Provider/アプリケーション。インフラストラクチャ・プロバイダ。ASPによるソフトウェアの提供と、通信回線や機材等のネットワーク・インフラの両方を提供する統合的なプロバイダのこと。
■研究テーマ
ユーザビリティ研究開発プロジェクト
■研究目的 ユーザビリティ開発手法を導入したデザイン開発プロセスの構築や、これを活用した次世代情報機器の具体的な提案を行うために地場企業のニーズやユーザビリティ研究以外のプロジェクトのシーズを踏まえたケーススタディを実施する。
■研究内容 (1)情報機器デザイン研究
(2)コラボレーション型情報機器開発研究
(3)ユーザビリティ評価技術研究
■参画機関 札幌市立高等専門学校・北海道立東海大学・公立はこだて未来大学・北海道立工業試験場
 前のページへ戻る   ページのTOPへ