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研究プロジェクト

平成14年度成果
ムーバブルコンピュータがひらく未来社会
松原 仁 機械からデザイン、AIにいたるまで
ロボット工学は、ひとつの知的クラスターを形成している。
ムバコンとそこから描かれ未来社会の夢へ。
松原 仁
公立はこだて未来大学教授
1959年東京都生まれ。86年東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻博士課程修了。
通産省工業技術院電子技術総合研究所入所。00年より現職。工学博士。
主な著書に『コンピュータ将棋の進歩』共立出版(1996)、『鉄腕アトムは実現できるか』河出書房新社(1999)、『ロボットの情報学』NTT出版(2001・共著)など。
鉄腕アトムのようなロボットを作りたい
写真1 高い吹き抜けの5層の空間が目の前に広がる。
 空中に張り出したスペースはまるで「天空の教室」であり、全面ガラスの壁の向こう側には、函館の町並みが陽光に輝いている。
 公立はこだて未来大学のオープンなアーキテクチャー空間に圧倒されながら歩いていくと、鉄腕アトムが外をのぞく部屋があった。情報アーキテクチャ学科教授・松原仁の研究室である。松原の専門分野は人工知能。ITカロッツェリア構想のなかでは、「ムバコン(ムーバブルコンピュータ)・デザイン技術研究開発」の研究代表を担当している。
 松原は、わが国の人工知能研究の発展とともに生きてきたといっても過言ではない。幼稚園のころ、アニメの鉄腕アトムに出会って以来、「アトムみたいなロボットを作りたい」という強い志とともに科学の道を歩んできた。東京大学で先駆的に人工知能研究を進め、同工学部大学院を修了した後は日本のロボット研究のメッカとも言える旧通産省工業技術院電子技術総合研究所(電総研)で、14年間にわたりロボット工学と人工知能の研究に力を注いできた。
 2000年4月、公立はこだて未来大学の開学と同時に教授に就任した松原は、今でも大の鉄腕アトムファンとして知られ、研究室のなかにはアトムグッズがあふれ、『鉄腕アトムは実現できるか?』という著書も出版している。
 ではムバコンとはアトムのようなロボットなのだろうか。
 「ムバコンというのは、ASIMOのような最先端技術を結集した高性能ロボットではないが、ロボット技術を取り入れたコンピュータにより自律的に行動し、さまざまな作業を行う機械」と松原は位置づける。
 ヒューマノイド型でもないが、工場の産業ロボットとも違う、まさに自律的に「動く」「移動する」機械たち。このプロトタイプとして分かりやすいのは、松原が手がける屋外ロボットムバコン「小型芝刈りロボット」だろう。複数の自走式小型芝刈り機がコンピュータを通じて交信し、互いの位置や作業状況を認識・把握しながら共同で作業を遂行するシステムである。ここには自律分散型ロボット技術が使われ、AIによってコンピュータ自身が自律性・適応性をもって作業の計画・管理まで行うことを可能としている。
 ITカロッツェリア構想のムバコン研究グループでは、この屋外ロボットムバコンの他、ウェアラブル技術によって、人間が装着し移動しながらセンシングや通信ができるヒューマンムバコン、ロボット技術を応用して新しいゲームや遊びのかたちを創造するエンターテインメントムバコン、災害時救助のためのプラットフォームとしてのライフガードPCなど4つのプロジェクトを進めている。

ロボット化するコンピュータ
 次世代ITモノ作りをコンセプトとするITカロッツェリア構想のなかで、応用分野としてムバコンを位置づける意味はどこにあるのだろうか。
 「ロボット技術がコンピュータやITの分野に浸透することで、コンピュータがロボット化してきている。もはやロボットとコンピュータの境界線はなくなりつつあります」と松原は語る。
 その理由のひとつとして挙げられるのがロボット技術のブラックボックス化だ。AIやロボット制御などの技術を組み込んだボードやモジュール、アプリケーションなどが登場してきたため、ロボットの専門知識や技術がなくてもムバコンレベルのものが作れるようになってきた。
 「こうした現象は今後ますます進み、教育や福祉をはじめ社会のさまざまな分野でロボットやムバコンが使われるようになります。札幌ITカロッツェリアがこの流れに無関心でいることはできない。市場にニーズがあり、実現する技術が手に入るようになってきたからには、それに対応できる体制を築いていくべきだと考えています」
写真2 ロボットは数多くの部品を必要とし、さらにその一つひとつに高度で先進的な技術が盛り込まれている。ロボットに関連する技術をざっとあげるだけでも、認知や推論といったAI技術をはじめ、組込みソフトやアプリケーション、センシング技術などのソフトウェア。ハードウェアでは基盤からチップ、センサー、マシン躯体など。さらにGPSやBluetoothなどの通信技術、ユーザビリティやヒューマンインターフェイスといったデザイン分野と、およそあらゆる知識と技術がそこに投入される。つまりロボットそのものがひとつの「知のクラスター」を形成しているのである。
 松原は、このロボットクラスターの一画にいち早く参入し、来るべき「ロボット時代」に備えることが北海道の地場産業にとって重要だと強調する。

コンテンツベースのロボット開発
 では、その突破口となるものは何か。
 松原は「北海道の技術力をベースに考えるなら、エンターテインメント分野で取り組むのがいい」と考える。
 その一例が、日本で生まれたサッカーをするロボットたちのワールドカップ「ロボカップ」である。1992年、電総研に所属していた松原らが中心となり、ロボット工学と人工知能の融合・発展のために、自律移動ロボットによるサッカーを題材として提唱された「ロボカップ」は、当初数名のエンジニアが自作のロボットを持ち寄って始めた小さなイベントだった。その後急速にファン層を広げ、97年には第1回の世界大会を名古屋で開催するにいたった。02年の第6回世界大会(福岡・釜山)には会場となった福岡ドームに12万人の観客がつめかけるほどに成長した。
 このロボカップには、センサや基板を搭載したロボットをプラモデル感覚で作れるキットが市販されており、自分でプログラムした戦術ソフトをロードできる。松原は、この子ども向けロボットを地場で開発したいと考えている。
「札幌には基板設計や組込みソフトに強い企業が多いので、十分に対応できるだろう。ロボカップのレギュレーションに対応したキットを販売しているのは国内ではまだ2社ほどしかなく、デザインやプログラム手法の面でもまだまだ開発の余地は多い」
 このサッカーロボットや、ロボットが鬼になって子どもたちを追いかける「鬼ごっこムバコン」、人間と対局する「将棋ムバコン」など、プロトタイピング技術を使って、アイディアの検討から製品化までをスピーディに進められれば、流れの早いゲーム業界でも十分に勝機はあると松原は言う。
 それはまさに技術ベースからコンテンツベースへのロボット研究の転換に他ならない。
 その北海道のコンテンツとして大きな可能性をもつのが、第一次産業へのムバコンの導入である。農業や酪農、漁業は北海道の基盤産業であり、市場規模も大きい。「農作業を代行するムバコンや家畜を管理するシステムなど、さまざまな用途が考えられます。一般の農家でも手の届く範囲の価格で提供できれば市場も広がり、北海道の地域優位性にもつながるはず」と松原は語る。
 そのための高機能なモジュール群を有し、車載制御用ネットワークのもとで自律移動と遠隔制御を統合した汎用プラットフォームの研究開発も、ITカロッツェリアムバコンプロジェクトの課題である。

2050年のロボカップ
写真3 手塚治虫の原作によれば、鉄腕アトムが生まれたのは2003年4月7日である。残念ながら現実の世界ではまだ鉄腕アトムは誕生していないが、「21世紀中頃にはアトムのようなロボットが実現するのではないか」と松原は予測する。
 21世紀は、日常生活のさまざまな場面でロボットやムバコンが活躍するようになり、昔マンガで見たような未来社会が築かれていくのだろう。その技術と産業とビジネスに北海道はどのようにコミットメントできるのか。その北海道のキーパーソンとして、松原の存在は大きい。
 ロボカップのようなリアルなロボットを組み立てるモノづくり感覚を子供たちが魅力に感じ、そこから多くのエンジニアが育ってくる姿は、かつてのマイコン少年たちから情報産業が立ち上がっていった姿を思い起こさせる。
 「2050年のロボカップで、ロボットサッカーチームが人間界のチャンピオンチームに勝つことが目標」と語る松原の笑顔には、いまも鉄腕アトムに憧れる子どもの面影があった。
■研究テーマ
ムバコン(ムーバブルコンピュータ)・デザイン技術の研究開発
■研究目的 ウェアラブルコンピュータ技術・自律分散型ロボット技術等を応用した行動型IT機器ムバコンをIT主要産業技術とするための開発デザイン技術と共通基盤を確立し、開発プラットフォームによる応用事例を探る。
■研究内容 (1)ヒューマンムバコンの応用開発
(2)屋外ムーバブル作業ロボット向け統合PCシステムの開発
(3)ライフガードPC
(4)エンターテイメントムバコン
■参画機関 公立ほこだて未来大学、北海道東海大学、北海道立工業試験場、東亜建設工業(株)、(株)東和電機製作所、エムアンドエム、(株)ユグドラジル・テクノロジー
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