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| 福祉工学の向こうにある感覚通信技術の未来 |
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福祉工学という先駆的な領域を疾走してきた研究者たち。
ITによる感覚への朝鮮から、
いまコミュニケーションの新しい未来が開かれようとしている。 |
 東京大学先端科学技術研究所センター教授 |
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1971年北海道大学工学研究科大学院修士課程修了。同年助手。77年同助教授。
89年より同教授として北海道大学電子研究所感覚情報分野、感覚代行システムに関する生体工学的研究に従事。
02年より東京大学先端科学技術研究所センター教授。工学博士。
主な著書に『音声タイプライタの設計』CQ出版(1983)、『音の福祉工学』コロナ社(1997)、『バーチャルリアリティの基礎4』培風館(2000) |
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日本のATの先駆者として |
AT(アシスティブテクノロジーAssistive Technology)とよばれる障害者支援技術の領域がある。
アメリカでは1973年から拡充をつづける米国リハビリテーション法や、障害を理由とした一切の差別を禁止した1990年の「障害をもつアメリカ人法(ADA)」などが、このAT技術や製品を大きく進歩させてきた。またEUでは、1991年から2001年までつづいたTIDEプロジェクトにおいて、ITを含む福祉機器の研究開発に300億円が投下されている。
現在日本の身体障害者数は300万人ともいわれ、高齢化が進むにつれ中途障害者も増加している。AT製品市場の将来的可能性は高いとされるが、残念ながら公民権運動の伝統をもつアメリカや福祉国家へ向かおうとしたヨーロッパの先進的な取り組みに対し、日本では国家によるサポートは不十分なものでしかなかった。
その日本のなかで30年前から先駆的に、福祉IT機器分野への取り組みをつづけ、日本のAT領域をリードしてきたのが、東京大学先端科学技術研究センター教授の伊福部達である。
伊福部は、02年に東大先端研に移るまで北海道大学で医用工学、福祉工学の研究に従事してきた。伊福部のもとからは、日本で最初の商用音声タイプライター(ビー・ユー・ジー開発)など、多くの成果が生まれてきた。そのひとつが、ITカロッツェリアでの研究内容にもなっている「電気式人工喉頭」である。
この電気式人工喉頭のデモを見た。
ガンで喉頭を失った人の喉に押し当てた電気人工喉頭から、言葉が飛び出してくる。少し機械的ではあるが、違和感は少ない。カラオケに合わせて歌も歌える。
この自然な音声を実現したのは、伊福部が手がけていた九官鳥音声の解析から始まる抑揚の役割と発声メカニズムの研究だった。母音が自然に聞こえるのは、声のもつ抑揚と波形の微妙な変化=波形ゆらぎにあるとする研究のもとに、北海道立工業試験場、札幌市のシステム開発企業・電制とともに、「抑揚」を考慮した自然な音声合成を可能にした電気式人工喉頭を開発。98年に国産初の製品「ユアトーン」として電制から発売されている。
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福祉工学の戦略性 |
「現在行っている研究は、30年前から発想していたもの。まだ当時は発想に技術が追いついていなかったり、寝かせていたものも多かったのですが、この10年くらいでようやくものになってきました」
伊福部が研究を始めた当時は、障害者が必要とする五感の支援技術はまったくなかった。研究のほとんどは町の発明家のレベルであり、産業にもならないし、基礎科学もない状態である。大学の研究者はほとんど誰もいない、まさにパイオニアだった。しかし「誰もやらないことをやるのは大学の仕事だ」と伊福部は言い切る。
伊福部が福祉工学をテーマとしたのは、高齢化社会の到来が予言され、高齢者でも働けるような、社会の価値観を変えなければ、やがて危機が訪れると確信したからだ。
彼はその思いを学会誌にこう書いた。
「新しい情報技術についていけないという理由で、社会から取り残されてしまう情報弱者も急速に増えている。情報弱者と高齢者の急増は労働力不足と高負担医療につながり、経済にも影をおとす」
福祉IT機器の開発は、北海道に向いているとも考えている。多様で大量生産に向かない福祉IT機器の開発を大手企業はやらない。事業が成立する規模は100人以下の中小企業で、特化した分野をもち、特徴を出したいという中小企業の姿勢に合っている。
これからアジアや中国が高齢化に向かうわけで、世界的な市場規模は大きく広がる。今この分野をやっておけば、世界に通用する技術を知的財産として確保でき、地域に成長する産業を生み出せるだろう。しかもタイプライターも電話も、当初は障害者支援の発明だった。カメラに使われるCCDセンサもスキャナも、ATのシーズから生まれたものである。つまり単に福祉IT機器の開発にとどまらず、そこから将来的なイノベーションを引き起こす技術が生まれる可能性すらあるのだと伊福部は言う。
たとえばITカロッツェリアの研究にもあげられたウェアラブルなソフトアクチュエータは、水素ガスを用いた障害者身体介助装置だが、これは将来的にヒューマノイド型のロボットの開発につながるだろう。また音声認識技術とVRを結びつければ、透過型メガネディスプレイを使った翻訳機が生まれる。
つまり福祉工学というと、何やら古臭く狭い技術という印象をもつとしたら大間違いであり、そこに潜むシーズとチャンスを失いかねないのである。
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五感情報通信という未来 |
伊福部が行っているこの研究分野は、感覚情報研究(Sensory Information Engineering)ともよばれている。ヒトの感覚と付随する運動機能を研究し、その衰退や喪失に直面した人たちの支援機器を開発するとともに、そこで得られた知見や技術をVRやロボットのインターフェイスに応用する研究とされる。
これは医学・生理学・心理学・工学など、まさに境界領域的研究であるが、伊福部が東大先端研で参加する「五感情報通信プロジェクト」は、札幌ともつながりの深い東大大学院情報学環教授・河口洋一郎や、東大先端研特任教授でメディアアーティストの岩井俊雄などのアート系人材も参加するなど、さらに広範な領域にわたっている。
五感情報通信プロジェクトとは、視覚や聴覚というこれまでの人間とコンピュータのインターフェイスを、人間の感覚全体に拡張しようというもの。たとえば嗅覚や味覚のディスプレイや、すでに実用化され始めている触覚ディスプレイなどのインターフェイスが考えられるが、それにとどまらず複数の感覚の相互作用や人工的な感覚もテーマとなる。そのような感覚情報をとり扱う基本ソフトや感覚応用システムを開発することで、VRは飛躍的に進化することになる。(※1)
五感情報通信は、多様な感覚デバイスを活用した豊かなコミュニケーションを生む通信技術であり、遠隔地にいながら空間を共有する「空間全体の通信」を可能にする新しい情報通信技術なのである。
伊福部の感覚情報研究は、まさにこのような電子技術による感覚の増強によって新しいコミュニケーションを拓くものとなっている。伊福部の言うとおり、障害者へのATから、それをこえた技術が産み落とされる可能性は大きい。
「サッポロバレーの情報企業がもっと多様性をもつことが、地域の情報産業の強さを生んでいく。福祉IT機器分野は、その絶好のフィールドであるし、ITカロッツェリア構想の目的とも合致するものです」
伊福部の研究室の片隅に、ロウ管レコードのレーザー再生機があった。音声認識の研究とのつながりで、手がけることになったものだ。かけてもらうと100年前の邦楽が生き生きと流れ出した。そういえば伊福部の叔父は、日本を代表する作曲家・伊福部昭(※2)である。そう思うと、伊福部の研究の核にある<音>の意味が、少し分かったような気がした。 |
※1 廣瀬通孝「五感情報プロジェクトについて」(先端研ニュース Vol.45)
※2 北海道釧路市出身の伊福部昭は、北海道帝国大学を卒業し、林務官のかたわら独学で音楽を学び、世界的に知られる作曲家になった。有名な「ゴジラ」の映画音楽を始めとして、多くの独創的で優れた作品を残した。 |
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■研究テーマ
福祉IT機器・デザイン技術の研究開発 |
| ■研究目的 |
本課題は、本構想の最終目標である「IT要素技術と意匠、利便性等の工業デザイン手法の融合」の実現例を示すために遂行され、応用システム研究開発プロジェクトの一環としてなされる。 本課題の具体的目標は、どこでもいつでも使えるユビキタス福祉IT機器、および身につけて持ち運べる使い勝手のよりウエアラブル福祉IT機器を試作するところにある。 |
| ■研究内容 |
(1)聴覚障害者用会議参加支援システムのユニバーサルデザインモデルの構築
(2)ソフトアクチュエータの福祉IT家電分野への適用モデル開発
(3)ユニバーサルデザインによるハンズフリー型電気人工喉頭の再設計 |
| ■参画機関 |
東京大学、北海道大学、札幌医科大学、北海道東海大学、北海道工業大学、昭和大学、北海道立工業試験場、(株)ビー・ユー・ジー |
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